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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)93号 判決 1996年2月29日

山口県岩国市麻里布町6丁目3番9号

(審決表示の住所 東京都台東区北上野2丁目2番6号)

原告

タイセイ株式会社

同代表者代表取締役

山根昭尚

同訴訟代理人弁護士

河原和郎

同訴訟代理人弁理士

三原靖雄

同訴訟復代理人弁護士

岡本健二

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

同指定代理人

歌門恵

幸長保次郎

関口博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成5年審判第7145号事件について平成6年3月7日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

山根誠は、昭和63年2月4日、名称を「フロンガス回収装置」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願(昭和63年実用新案登録願第14375号)をし、その後、原告は、同人より本願考案の実用新案登録を受ける権利を譲り受け、同年4月22日、特許庁長官に実用新案登録出願人名義変更届を提出したところ、平成5年2月12日拒絶査定を受けたので、同年4月12日審判を請求し、平成5年審判第7145号事件として審理されたが、平成6年3月7日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同月31日原告に送達された。

2  本願考案の要旨

移動用の車輪を有する台枠本体に、圧縮機に連なる圧力計、冷却機構付き凝縮器及びガスタンクを配管により順次連結し、且つ該ガスタンクに対しても冷却機構を装設して成ることを特徴とするフロンガス回収装置。(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願考案の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  これに対して、本願出願前頒布された刊行物と同等である実願昭57-169459号(実開昭59-72112号公報)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)には、「冷媒圧縮式クーラーの冷媒回路に接続しうる接続口、コンプレッサー、コンデンサー及び回収した冷媒を貯えるチャージタンクを有し、前記接続口とコンプレッサー吸込口、コンプレッサー吐出口とコンデンサー入口、コンデンサー出口とチャージタンク入口とを夫々管路で接続して前記接続口、コンプレッサー、コンデンサー及びチャージタンクを直列に連通する冷媒回収回路と、チャージタンク出口と前記接続口とを管路で接続して前記チャージタンクと前記接続口とを直列に連通する冷媒供給回路とを設け、これら両回路のいずれか一方を選択しうるように構成したことを特徴とする冷媒回収装置」、「自動車のクーラーの冷媒レシーバー(図示せず)中の冷媒がすべて気化しコンプレッサー(「コンデンサー」とあるのは誤記と認める。)1により吸込まれると、クーラーの内部圧力が著しい負圧となりこれより冷媒を回収したことを知ることができる。従ってこの後は電動器11、14を停止し、開閉弁を閉じて回収を完了する。」と記載されていて、ファン付きコンデンサーが図示されている(別紙図面2参照)。また同じく刊行物である特開昭57-169573号公報(以下「引用例2」という。)には、「コンデンサー及び回収回路を備えて冷媒回収管路を設けると共に該管路を被充填装置の高圧側と連通させ被充填装置のコンプレッサーを駆動して該装置内の冷媒の抜き取りを行うことを特徴とする冷媒充填装置。」が記載されていて、圧力計、ファン付きコンデンサー、ファン付き冷媒回収容器、冷媒タンクが図示されている(別紙図面3参照)。

(3)  本願考案と引用例1記載のものとを対比すると、両者は、圧縮機、冷却機構付き凝縮器及びガスタンクを配管により順次連結して成るフロンガス回収装置である点で共通のものであり、ただ本願考案は、<1>移動用の車輪を有する台枠本体に装置を乗せた点、<2>圧縮機に連なる圧力計を有する点、<3>ガスタンクに対しても冷却機構を有する点で相違するものである。

(4)  上記相違点について検討する。

<1> 相違点<1>について

引用例1記載の冷媒回収装置も自動車などの修理や整備のときに使うものであり、自動車などを冷媒回収装置のそばに持ってきて使うか、又は、冷媒回収装置を自動車などの方に持っていって使うかするものであり、いずれにしても、どちらかを動かして近くで作業をすることは明らかであるから、装置の方を台車に乗せて移動しやすくすることはきわめて容易である。

<2> 相違点<2>について

冷媒を全部出したかどうかをみることは必要なことであり、引用例1には圧力について記載されているから、引用例2に記載されているように圧力計を付けることはきわめて容易である。

<3> 相違点<3>について

回収タンクの中でも冷媒の圧力が上がらない方が良いものであるから、引用例2に記載されているように、タンクにも冷却機構を付けることはきわめて容易である。

(5)  本願考案の効果は、これらの引用例1及び2に記載されていることから予測できるものである。

(6)  したがって、本願考案は、引用例1及び2に記載されたものに基づいてきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)ないし(3)は認める。同(4)ないし(6)は争う。審決は、本願考案と引用例1記載のものとの相違点及び本願考案の効果についての判断を誤り、その結果、本願考案の進歩性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  相違点<1>の判断の誤り(取消事由1)

本願考案は、あらゆる種類の、あらゆる場所における、あらゆる状態の冷媒装置からのフロンガスの完全な回収と再利用、廃棄、及び、そのための移動、貯蔵、流通を可能にするという目的、効果を有するものであり、そのために、移動用の車輪を有する台枠本体に装置を乗せたほか、装置全体も種々の場所における作業に適するように機動性を有するものとしたのである。

これに対し、引用例1の冷媒回収装置は、経済的観点からの冷媒の回収を目的とし、そのために、冷媒回収回路と冷媒供給回路とを設け、これら両回路のいずれか一方を選択的に使用し得る構造としたものである。

このように、本願考案と引用例1の考案とは、その目的を異にするのであるから、相違点<1>の判断に当たっても、両者の目的や効果との関係で装置全体の機能を考慮すべきであるにもかかわらず、審決は、移動用の車輪の有無にのみ着目して、「(冷媒回収装置と自動車などの)どちらかを動かして近くで作業をすることは明らかであるから、装置の方を台車に乗せて移動しやすくすることはきわめて容易である」としたものであって、相違点<1>についての判断は誤りである。

(2)  相違点<2>の判断の誤り(取消事由2)

審決は、「引用例1には圧力について記載されている」と認定しているところ、これは、引用例1に「自動車のクーラーの・・・冷媒がすべて気化してコンプレッサー1により吸込まれると、クーラーの内部圧力は著しい負圧となり、これにより冷媒を回収したことを知ることができる。」(甲第5号証5頁11行ないし15行)との記載を指しているものと解されるが、この記載は、自動車のクーラー、つまり被回収機内の内部圧力(負圧)についてのものである。

また、引用例2の圧力連成計は、充填を受ける冷房装置の高圧側及び低圧側の圧力を表示するものである。

これに対し、本願考案は、「気体(冷媒)をコンプレッサーで加圧して圧力を次第に上昇させ、15kg/cm2Gまでにすると発熱するので、この熱を冷却ファンで冷すと液体となる」(甲第9号証の2第4頁)との知見に基づいて、「(廃車のカー・クーラーから噴射された)気体状のR-12を回収装置のコンプレッサーで圧縮し、・・・強制冷却し液体状・・・にして、フロン回収ボンベの中に、コンプレッサー加圧しながら・・・回収」(同第6頁)し、「圧縮中の圧力が約15kg/cm2Gに保(つ)」(同第6頁)ために圧力計を設定したものである。つまり、圧縮機と凝縮器の間にある本願考案の圧力計は、圧縮機以降の凝縮器、及びこれらを連結する配管内の圧力を測定するためのもの、すなわち、回収装置そのものの内部圧力の測定のためのものであり、引用例1及び2の考案における圧力計のように、被回収機あるいは被充填機内部の圧力を測定するために設定されたものではない。そして、本願考案が、回収装置のコンプレッサー(凝縮器)からガスボンベの直前までの間の内部圧力を測定するために圧力計を設けたことは、圧力計で測定しながら回収装置を操作して、凝縮器内の圧力を15kg/cm2Gに保つことによって、季節や屋内外を問わず、最も効率的、迅速かつ適切にフロンガスの液化回収を行うことを可能とした画期的なものである。

したがって、引用例1及び2の記載から、本願考案のような圧縮機に連なる圧力計を想到することはきわめて容易であるとはいえず、相違点<2>についての審決の判断は誤りである。

(3)  相違点<3>の判断の誤り(取消事由3)

本願考案においてガスタンクに対しても冷却機構を有しているのは、フロンガスの「温度とその蒸気の飽和との関係を示す蒸気圧曲線の特性」を利用して、最終的に回収したガスの液化状態を安定させて、廃棄あるいは再利用のために貯蔵、運搬、流通させるという目的を達成するためである。

これに対し、引用例2の考案は、「冷媒の回収を行なう時には管路17に於ける冷媒の液化に伴なう放熱を冷却して液化の促進をし」(甲第4号証2頁右上欄2行ないし4行)ているのであって、送風機を冷媒の液化手段として捉えているにすぎず、貯蔵、運搬、流通のため、一旦液化された冷媒の液化状態を安定、維持させる手段として、貯蔵タンクを冷却するという目的及び機能はない。すなわち、引用例2の回収容器20には回収した冷媒を受けるタンク21が接続されていて、コンデンサー18で液化し、ドライヤー19で除湿及び不純物の取り除きが行われた冷媒は、一旦回収容器20内に貯えられるものの、いまだ液相部分と気相部分とが併存する状態であるから、いわゆる滴下方式により、最終の貯蔵タンクであるタンク21に回収する構造となっているものであって、その際、回収容器20内の気相部分をできるだけ少なくするために、換言すれば液相部分を多くするために、送風機によって冷却しているのである。

上記のとおり、引用例2の回収容器20に対する冷却機構の目的、効果は、本願考案におけるものと全く異なるから、引用例2から、相違点<3>に係る本願考案の構成を想到することはきわめて容易になし得ることではない。

したがって、相違点<3>についての審決の判断は誤りである。

(4)  効果についての判断の誤り(取消事由4)

本願考案は、「自動車のクーラー装置を始めあらゆる冷房装置等の改修又は解体の際に、従来無為に大気中へ放散していたフロンガスを完全に回収して再利用を可能とするもので、経済的効果もさることながら地球上に大きな公害をもたらすフロンガスの拡散を防止するためにも大きな効果を奏するもの」である。すなわち、本願考案は、あらゆる環境下にある、あらゆる種類、状態の冷媒の冷房機器からの大量かつ完全な回収と再利用、廃棄及びそのための移動、貯蔵、流通を可能とする効果を有するものである。

これに対し、引用例1の考案は冷媒の回収と一時的貯蔵の効果をもつにすぎず、引用例2の考案は安全な充填作業のための冷媒の回収の効果を有するにすぎない。

したがって、これらの引用例から、本願考案の作用効果を予測することはできないものというべきであって、本願考案の効果についての審決の判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

移動用の車輪を有する台枠本体に道具や装置を乗せて移動しやすくすることは、工場等における自動車組立、修理、解体において通常なされていることで、相違点<1>に係る本願考案の構成は、引用例1の冷媒回収装置にこの通常なされていることを付加したものにすぎない。そして、車輪をつけることによって機動性が良くなることは当然のことである。

(2)  取消事由2について

引用例1記載のものは、圧縮機の出口圧力を計るものではないが、圧力機器において圧力計をつけて使用時の圧力を看視することは通常行われていることであり、高圧ガス取締法と冷凍法規により、適用除外はあるけれども義務づけられていることでもある。

引用例2の高圧側圧力連成計10は、冷媒回収時にもまた圧縮機出口側の圧力を表示しているものであって、コンプレッサー(圧縮機)2の出口、接続ホース8、コンデンサー(凝縮器)18を通って回収容器20に入る冷媒回収回路17の圧力を表示しているものである。

一方、本願考案の「圧縮機に連なる圧力計」は、単にあるというだけで、装置の他の部分と関連しているものではないし、本願明細書にはその作用について何ら記載されていない。

したがって、引用例1記載の圧力系において、本願考案のように、圧縮機に連なる圧力計をつけることは当然のことであってきわめて容易にできることである。

(3)  取消事由3について

引用例1には、「冷媒回収時においてチャージタンク3の上部空間の内圧が上昇して管路9からの冷媒の流入が妨げられる場合、一時的に開閉弁26を開放し、チャージタンク3の内部上方空間の内圧を抜くことによってチャージ空間3の内部にさらに冷媒を回収し充満させることができる。」(甲第5号証6頁17行ないし7頁3行)と記載されていて、抜かれたガス冷媒はバイパス管路27を通り再びコンデンサー(凝縮器)2で冷やされてタンクに戻るもので、直接タンクを冷やす代わりにコンデンサーで冷やすものではあるが、冷やす点では類似のものである。

引用例2の第1図と第2図において、回収容器20にはファンが対向して風を送るようになっており、さらに回収容器20にはフィンがついていて放熱するようになっている。ファンやフィンはそれぞれ冷却装置に該当するものである。引用例2記載のものには、回収容器20とそれから液冷媒を受けるタンク21が取りつけてあり、これらは液側も気体側も連通しているものであるから、一つの容器に該当する。

引用例1の圧力容器であるチャージタンク3は、本願考案の単一のガスタンクに該当し、また冷媒入れとして引用例2記載の回収容器20とタンク21に相当するものであるから、引用例1記載のチャージタンク3にも引用例2記載のような冷却機構を設けることはきわめて容易にできることである。

(4)  取消事由4について

引用例1の4頁9行ないし16行に記載のとおり、引用例1記載のものは、冷媒を吸収し、一方で供給にも使われるものであるから、冷媒の貯蔵をし、再利用もするものである。また、引用例2の2頁左上欄19行、20行に記載のとおり、引用例2記載のものも、回収した冷媒を再利用させるものである。

したがって、本願考案の効果は、引用例1及び2の記載から予測できるものであるとした審決の判断に誤りはない。

第4  証拠

証拠関係は、書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願考案の要旨)、3(審決の理由の要点)、及び、審決の理由の要点(2)(引用例1及び2の記載事項の認定)、(3)(本願考案と引用例1記載のものとの一致点及び相違点の認定)については、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の審決取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由1について

<1>  本願明細書(甲第1号証)中の「この考案は、自動車解体作業の際に従来は大気中へ放散していたクーラーのフロンガスを徹底的に回収し、・・・大きな地球上の公害防止に役立てようとするものであり、なお自動車のクーラーばかりでなく他の冷房装置又は冷凍機等にも使用可能な完全なるフロンガス回収装置を提供するものである。」(3頁3行ないし9行)との記載、及び、引用例1(甲第5号証)中の「この考案は、自動車などに採用される冷媒圧縮式クーラーの冷媒を回収する冷媒回収装置に関するものである。」(2頁3行ないし5行)、「本考案は・・・冷媒圧縮式クーラーの冷媒を回収する装置を提供することを目的とする。」(2頁14行ないし16行)との記載によれば、本願考案と引用例1の考案とは、自動車のクーラーやその他の冷房装置等に用いられるフロンガスを回収することを目的としている点で共通していることは明らかである。

しかして、上記目的を達成するための一手段として、種々の場所におけるフロンガスの回収作業に適するように機動性を持たせるべく、装置を移動用の車輪を有する台枠に乗せる程度のことは、当業者においてきわめて容易に想到し得ることと認められる。

<2>  原告は、本願考案と引用例1の考案とは、その目的を異にするから、移動用の車輪の有無にのみ着目してなされた、相違点<1>についての審決の判断は誤りである旨主張するが、採用できない。

<3>  以上のとおりであるから、相違点<1>についての審決の判断に誤りはなく、取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2について

<1>  本願明細書の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、本願考案の圧縮機に連なる圧力計は、配管により連結されている圧縮機と凝縮器との間に設定されているものであって、圧縮機と凝縮器を連結する配管内の圧力を測定するものであると認められる。

ところで、引用例2(甲第4号証)には、「10、11は該本体5前面に備えられる高圧側及び低圧側の圧力連成計で、冷房装置1の高圧側及び低圧側の圧力を表示する。」(1頁右下欄12行ないし15行)と記載されているが、引用例2の第1図によれば、高年側圧力連成計10は、接続ホース8によって連結されたコンプレッサー(圧縮機)2とコンデンサー(凝縮器)18との間に設定されているから、冷媒回収時には、コンプレッサーとコンデンサーを連結する接続ホース内の圧力を表示しているものと認められる。

上記認定によれば、圧縮機と凝縮器を連結する配管内の圧力を測定するために、本願考案のように圧力計を設定することは、引用例2の考案に基づいて、当業者がきわめて容易に想到し得ることと認めるのが相当である。

<2>  原告は、本願考案は、「気体(冷媒)をコンプレッサーで加圧して圧力を次第に上昇させ、15kg/cm2Gまでにすると発熱するので、この熱を冷却ファンで冷すと液体となる」との知見に基づいて、「(廃車のカー・クーラーから噴射された)気体状のR-12を回収装置のコンプレッサーで圧縮し、・・・強制冷却し液体状・・・にして、フロン回収ボンベの中に、コンプレッサー加圧しながら・・・回収」し、「圧縮中の圧力が約15kg/cm2Gに保(つ)」ために圧力計を設定したものである旨、また、本願考案は、圧力計で測定しながら回収装置を操作して、凝縮器内の圧力を15kg/cm2Gに保つことによって、季節や屋内外を問わず、最も効率的、迅速かつ適切にフロンガスの液化回収を行うことを可能としたものである旨主張するが、本願明細書(甲第1号証、第6号証)には、上記主張に係るような記載は全くなく、上記主張は採用できない。

また、原告は、引用例1及び2の考案における圧力計は、被回収機あるいは被充填機内部の圧力を測定するために設定されたものであることを前提として、これらの引用例の記載から、本願考案のように回収装置そのものの内部圧力を測定するための、圧縮機に連なる圧力計を想到することはきわめて容易であるとはいえない旨主張するが、上記認定のとおり、引用例2の高圧側圧力連成計10は、冷媒回収時には、コンプレッサーとコンデンサーを連結する接続ホース内の圧力を表示しているものと認められるから、上記主張は採用できない。

<3>  以上のとおりであるから、相違点<2>についての審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。

(3)  取消事由3について

<1>  本願明細書中の「装置のフロンガスは圧縮機により吸引圧縮されて圧力計を通り凝縮器へ入り、ここで冷却機構により冷却されて凝縮し配管を通じてガスタンクへ入り、ここでも冷却装置で更に凝縮して完全に液化するのでクーラー装置の冷媒フロンガスを回収することができる」(甲第1号証4頁3行ないし8行)との記載によれば、本願考案においては、凝縮器の冷却機構により冷却されて凝縮したフロンガスを、ガスタンクに装設されている冷却機構によりさらに凝縮、液化するものであることが認められる。

引用例1にファン付きコンデンサーが図示されていることは当事者間に争いがなく、引用例1には、「この冷媒ガスは、・・・コンデンサー2でファン15によって冷却されることにより凝縮して液化し」(甲第5号証5頁7行ないし10行)と記載されていることが認められる。

ところで、引用例2の第1図、第2図には、「冷媒の回収を行なう時には管路17に於ける冷媒の液化に伴なう放熱を冷却して液化の促進」(甲第4号証2頁右上欄2行ないし4行)をする送風機26と、フィンが付設された回収容器20に対向して配置された送風機が示されていることが認められ(引用例2にファン付き冷媒回収容器、冷媒タンクが図示されていることは、当事者間に争いがない。)、これによれば、引用例2の考案においては、回収管路における冷媒の冷却と共に、回収容器20に回収された冷媒が冷却機構(送風機及びフィン)によってさらに冷却されているものと認められる。

上記のとおり、引用例2には、回収容器に回収された冷媒を冷却機構により冷却することが開示されているのであるから、引用例1の冷却機構付き凝縮器で冷却された冷媒をさらに冷却して液化させるために、本願考案のガスタンクに相当するチャージタンク3に対しても冷却機構を有するようにすることは、当業者においてきわめて容易に想到し得ることと認めるのが相当である。

<2>  原告は、本願考案においてガスタンクに対しても冷却機構を有しているのは、フロンガスの「温度とその蒸気の飽和との関係を示す蒸気圧曲線の特性」を利用して、最終的に回収したガスの液化状態を安定させて、廃棄あるいは再利用のために貯蔵、運搬、流通させるという目的を達成するためであるのに対し、引用例2の考案は、回収容器20内の気相部分をできるだけ少なくするため、すなわち、液相部分を多くするために、送風機によって冷却しているのであって、本願考案のように、貯蔵、運搬、流通のため、一旦液化された冷媒の液化状態を安定、維持させる手段として、貯蔵タンクを冷却するという目的及び機能はないことを理由として、引用例2から相違点<3>に係る本願考案の構成を想到することはきわめて容易になし得ることではない旨主張する。

しかし、本願考案が、ガスタンクに対しても冷却機構を有している点について、本願明細書には、フロンガスの「温度とその蒸気の飽和との関係を示す蒸気圧曲線の特性」を利用して、最終的に回収したガスの液化状態を安定させて、廃棄あるいは再利用のために貯蔵、運搬、流通させるという目的を達成するためであるという記載はない。本願考案において、ガスタンクに対して冷却機構を設けているのは、上記のとおり、凝縮器の冷却機構により冷却されて凝縮したフロンガスを、ガスタンクに装設されている冷却機構によりさらに凝縮、液化するためであるが、この点は、引用例2の回収容器に対して設けられている冷却機構による冷却によっても同様に達成されるものと認められる。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

<3>  以上のとおりであるから、相違点<3>についての審決の判断に誤りはなく、取消事由3は理由がない。

(4)  取消事由4について

本願明細書には、本願考案の効果について、「本考案のフロンガス回収装置は、自動車のクーラー装置を始めあらゆる冷房装置等の改修又は解体の際に、従来無為に大気中へ放散していたフロンガスを完全に回収して再利用を可能とするもので、経済的効果もさることながら地球上に大きな公害をもたらすフロンガスの拡散を防止するためにも大きな効果を奏するものである。」(甲第1号証5頁7行ないし13行)と記載されていることが認められる。

ところで、本願考案の構成は、上記のとおり、引用例1及び2の考案から、当業者がきわめて容易に想到し得るところであり、この構成により上記効果を奏することも当然予測できる程度のものであると認められる。

また、引用例1の「冷媒圧縮式クーラーの冷媒を容易に回収し、一時貯えて再利用のため定められた量を確実に供給することができ、」(甲第5号証7頁11行ないし13行)、引用例2の「回収した冷媒を充填用として使用できる」(甲第4号証2頁左上欄19行、20行)との各記載1に照らしても、引用例1及び2の考案においても、回収した冷媒の再利用が可能なものであると認められる。

したがって、本願考案の効果は、引用例1と2に記載されていることから予測できるものであるとした審決の判断に誤りはなく、取消事由4は理由がない。

3  以上のとおりであって、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、審決に取り消すべき違法はない。

よって、原告の本訴請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙図面1

<省略>

別紙図面2

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別紙図面3

<省略>

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